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生命と栄養のブログ from 福山大学 生命栄養科学科

NHK 男と女 第3回

1月にNHKで放映された同シリーズ。 前回ブログの2回目に続き、今回は第3回目。 順番はバラバラですが、1回目についてはまたそのうち書くかもしれません。

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3回目のテーマは「ほ乳類における男という存在が風前の灯火だ!」というお話で、随分話題を呼んだようです。

番組を見そこねた方のために、極力コメントを避け、ポイントだけを紹介したいと思います。

ヒトは22対の常染色体と、1対の性染色体を持ち、性別は性染色体の組み合わせによって決まります。 XXなら女性、XYなら男性です。 

卵子と受精した精子がX染色体を持っていると女性に、Yを持っていると男性になります。

このY染色体はX染色体に比べて格段に小さく、含まれる遺伝子の数もXの1098に対して、Yが78と、Xが圧倒しています。

このY染色体も、もとはX染色体と同じぐらいの大きさで、1億6600万年前には1000以上の遺伝子を持っていたと推定されています。

これが進化の過程で段々遺伝子が失われていき、このままでいくと少なくとも500~600万年後にはヒトのY遺伝子が消えて無くなる(オスが無くなる)との推計です。

性の成り立ちと進化は興味深い問題です。 ピーター・N・グッドフェローらが1990年7月19日号のNatureに投稿したSRY(Sex Region Y、性決定領域Y染色体)という遺伝子が進化の過程で出現し、オスが出現しました。 またSRY遺伝子を持つ染色体がY染色体になったのだと理解しています。

こうしてY染色体になる定めとなった染色体には、精子を作る遺伝子や、胎盤を作る2つの遺伝子が載り、性染色体としての専門性を高めていったのに対して、それ以外の遺伝子はどんどん失われていきました。

この遺伝子の少なさが、オスの脆弱性や生物学的な不完全さの根拠として取り上げられる事もあります。

近年多くの生物のゲノム解析が進み、蓄積された知見をみていると、特に動物は必要な遺伝子を積極的に獲得する一方、いらなくなった遺伝子をどんどん失っていくようです。

遺伝子を交換することは生物の生存に有利であり、性の誕生は遺伝子のシャフリングを促すためという説明がなされます。 

先ほど紹介したSRY遺伝子と精子を作る遺伝子は、オスを作るのに必要な遺伝子ですが、胎盤を作る2つの遺伝子がY染色体に載っているというのが1つの味噌です。

胎盤はほ乳類が子供を作るのに不可欠であり、胎児が外界の様々な環境の影響を極力受けずに成長する事ができるので、ほ乳類の生存には有利です。

もし胎盤を作る遺伝子がX染色体などY染色体以外にあれば、ほ乳類は遺伝子の交換なしにメスだけで子供を作る事ができるかもしれません。 それがほ乳類的にはまずかったので胎盤を作る遺伝子がY染色体に載ったのか、たまたまY染色体に載ったのか。 当事者(誰?)に聞いてみないと真相はわかりません。

話をY染色体の消滅に戻します。

日本に住むトゲネズミという動物は、既にY染色体を失ってしまったにもかかわらず、性を維持したまま生き延びているそうです。

どうやって? 

まず精子を作る遺伝子はどこか他の染色体に移し、SRY遺伝子に相当する遺伝子も恐らくどこかにあるのだろうとのことです。 

SRY遺伝子が進化の過程でいきなり現れたのも不思議ですが、染色体が無くなるとまた別の遺伝子が現れてくるなんて、「生物システム、恐るべし!」です。

さて、番組後半ではさらに切実な問題が紹介されていました。 
ヒトの精子の品質劣化です。

デンマークを中心とした研究によると、ヒトの精子の劣化は甚だしく、まず数が減っています。 1 mLあたりの精子数が4000万個を下回ると受精の確率がガクンと落ち、2000万個を下回ると不妊になるそうですが、デンマークの平均はぎりぎりの4000万個台だそうです。

またこの5年から10年という短い期間で(スウェーデンだったか?)、精子の数が20~30%も減っているということでした。 この原因については環境や放射線など様々な原因が考えられているものの、不明です。

また精子の85%は形態異常で、正常な精子は全体の僅か15%程度、ちゃんと泳げる精子も全体の30%程度だそうです。

番組では、このまま行くと早晩人類には子供が生まれなくなり絶滅の危機に瀕する、これに対処するために人工授精や顕微授精などの生殖技術の進歩があるが、このような技術がますます精子の質をおとしめ、人類には明るい未来はなさそう、という問題提起で終わりました。

以上が番組の骨子です(若干解説やコメントが入りましたが)。

で、人類滅亡。 実際どうなんでしょうか? by iwc

PS 大学で1年先輩だった福岡伸一さんが、「できそこないの男たち <生命の基本仕様> それは女である」(光文社新書371)という本を書いておられます。 

PS この番組のメーンキャストの西田尚美さんは、福山市出身で、福山大学に近い福山市立福山高等学校卒業です。 ちなみに今日2月16日が誕生日だそうです(wikipedia)。

PS 上の話題とは直接関係しませんが、今朝テレビでG7における中川財務大臣の記者会見を見ていてがっかりましました。 理由は時差ボケ、寝不足、風邪薬、深酒といろいろ出ています。 理由はともあれ、あの映像を見ると、世界、アジア、政界、財界、国民、若者など色々な層に対して、ある種の強いメッセージを送った事は確かだと思います。 昔、ロシアのエリツィン大統領にも同じような事があったことを思い出しました。 ただ今回は、このような状況下で、このような場所で、このような人がという、これ以上ないピンポイントのTPOでした。 人類の滅亡も心配ですが、日本の将来もどうなるか。 
by seimei-eiyou | 2009-02-16 12:21 | その他