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生命と栄養のブログ from 福山大学 生命栄養科学科

カロリー制限

カロリー制限_c0166720_2035675.gif以前本学生物工学科にいらっしゃった浅田浩二先生は、活性酸素研究の世界的な権威です。 活性酸素とは、酸素分子から生じる反応性の高い酸素分子種で、スーパーオキシドや、ヒドロキシラジカルなどがこれに含まれます。

太古の地球には酸素はほとんど存在せず、大気の多くは二酸化炭素でした。 それが光合成能を持つ生物の出現で、大気中の二酸化炭素が酸素に置き換わっていきました。 意外に思われるかもしれませんが、酸素は反応性が高く(例えば炭素と劇的に反応して燃える)、生物にとっては猛毒です。 そこで生物は酸素の害を何とか防ぎ、これを有効に利用する方法を獲得したのでした。

活性酸素は絶えず体の中で発生していて、酵素などの作用で絶え間なく活性酸素を無毒化されています。 このアブナイ活性酸素の発生を抑える事ができれば、生物は長生きできると考えられます。 浅田先生のお話によると、「活性酸素の源である酸素や食物をやめ、呼吸と飲食をしなければ理屈の上では長生きできる!」そうです。 まさに生物とは因果な存在です。

さてこれまでの動物実験によると、カロリー制限をすると寿命が伸びるのはどうやら本当みたいです。 さすがに人間でこのような研究を行った人はいませんが(疫学調査では有るかもしれない)、カロリー制限と長寿の関係は生物に普遍的なようなので、人間でも恐らく同じでしょう。 

カロリー制限をすると体重、血圧、コレステロール、中性脂肪などの減少が期待できます。 ではどれくらい制限すればいいのでしょうか。 人間の生命活動に影響が出るほどカロリー制限をしてしまうと元も子もありません。 その人に合わせて10~30%ぐらいでしょうか。 これはちょうど腹八分目にあたり、昔の格言はいいところをついています。 さて関連する話題で、カロリー制限をすると寿命が延びるだけではなく、記憶力も向上するというお話です。

PNAS (2009) 106: 1255-1260に掲載されたドイツ、ミュンスター大学のWitteらの研究によると、ちょっと太め(BMIの平均が28、日本人では十分太め)の男女50人(女性29名、平均年令60.5歳)を3つのグループに分け、最初のグループは普通の食生活、2番目のグループは30%のカロリー制限、最後のグループは健康によいとされる不飽和脂肪酸を普段よりも20%多く摂取してもらいます。 3ヶ月後に調べたところ、30%のカロリー制限をしたグループは体重が数%減少したのに加え、記憶力テストの成績が20%も改善したそうです。 ほかの2つのグループには、有意な変化は見られませんでした。 体重減少はともかく、僅か3ヶ月のカロリー制限で、ちょっぴり太めで還暦前後の方の記憶力が20%も改善したとは驚きです。 

カロリー制限_c0166720_20132649.jpg彼らはこの原因としてインスリンに対する感受性が上がり、炎症反応が減少する事により、神経シナプスの可塑性が上がり、脳における神経伝達が刺激された事によるかもしれない(higher synaptic plasticity and stimulation of neurofacilitatory pathways in the brain because of improved insulin sensitivity and reduced inflammatory activity)と言っています。 いずれにしろ、「最近言葉が出てこない!」とお悩みのプチメタボリックな中高年の皆様は、腹八分目をお試しになるといいかもしれません。  by iwc
by seimei-eiyou | 2009-03-25 20:14 | その他