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生命と栄養のブログ from 福山大学 生命栄養科学科

iPS

iPS_c0166720_19242760.jpg平成21年10月21~24日(水~土)に、神戸のポートアイランドで開催された日本生化学会大会に参加しました。 学科からは里内教授、菊田教授、瓜倉助手などがポスター発表されました。 

1万人近くが参加する大きな学会ですので見所は色々あるのですが、今回は京都大学大学院生命科学研究科が仕切ったこともあり、大会第3日目の山中伸弥教授の講演会が白眉だったと思います。 山中先生は、ご存じ世界で最初にiPS細胞を開発された方で、現在も生き馬の目を抜く以上の激しい国際的な研究競争を戦っておられます。

私はこれまで山中先生のご講演を聴く機会が何回かあったのですが、分野が違う、会場が混むなどの理由でパスしてきました。 そんなこともあり、今回は講演中の山中先生の表情も委細漏らさず観察すべく、会場最前列の山中先生に一番近い位置に席を取りました。

席に座っていると山中先生がすぐ目の前を通られ、その時にふと、なぜか足腰がしっかりした(体躯が強い)方だなとの印象を持ちました。 その印象はあながち間違っておらず、先生は神戸大学医学部の学生の頃トライアスロンに励まれていて、本土!からポートアイランドまで走ってきて、ポーアイのプールで泳ぎ、また走って本土に帰るという生活をされていたそうです。

講演の冒頭にはそのようなエピソードをお話しになり、「今日は素晴らしい秋晴れなので、室内で講演を聴くより外にいた方がいい。」とか、スライドが始まると「昨日(Windows 7の発売日だった)、一晩中かかってシステムをWindows 7に更新したので、今日スライドが映るかどうか心配でした。」とつかみもバッチリです。 あのお忙しい山中先生が、Windows 7発売日に電気屋さんに並んで買い、自分のパソコンにインストールするはずは無いのに、そんな光景が目に浮かぶのが不思議です。

次に皮膚の細胞をiPS化する様子を示されました。 「皮膚の小片を取ってiPS細胞を作るのですが、外国では髪の毛一本からiPS細胞を作る技術が開発されました。 しかし私のような人間にとって髪の毛1本は貴重です。 私なら皮膚円(小片)から作った方が助かります。」と自虐ネタも披露されました。

iPS細胞は、体細胞に4つの遺伝子を入れて作ります。 その中にc-Mycという癌原遺伝子が含まれており、できあがったiPS細胞が患者さんの体内でガン化する恐れがあります。 そこで何とかc-Mycを組み込むこと無く、効率的にiPS細胞を作る方法についてわかりやすく説明されました。 

将来iPS細胞による治療が期待される病気に、SMA(脊髄性筋萎縮症)やALS(筋萎縮性側索硬化症)があります。 ALSは別名ルー・ゲーリッグ病とも言われます。 「今年、イチロー選手が大リーグ初となる9年連続200本安打を達成しましたが、それまでの8年連続記録を持っていたのがルー・ゲーリッグです。 ゲーリッグは9年目にATLが発病し、記録が途切れてしまいました。 もしATLを発病しなければ、もっと記録が伸びていたかもしれません。」とスポーツマンらしい含蓄のあるお話しをされました。

また「病気になるかならないかは3つの要素が関係しています。 1つは遺伝的要因、2つめは環境因子、3つめはAging(加齢)です。 環境因子としては、エピジェネティクスの蓄積が重要だと考えられます。 これら3つの要素の比重は、病気によって変わります。」と図を示してわかりやすく説明されました。 

最後に世界地図を示され、「この地図は、新型インフルエンザの世界的広がりを示しているのではなく(笑)、iPS研究の世界的広がりを示した図です。」 またF-22ステルス戦闘機の写真を示して、「優れた技術が1国で独占されてしまうと困った事になります。 人類にとって素晴らしい技術は、国際協力が何より重要です。」と講演を締め括られました。 

iPSの分野は、いつ誰がどんな研究成果をひっさげて他の研究者を出し抜くかという、極めてストレスの多い研究分野です。 その中で、「一刻も早く患者さんに朗報を届けるためには、世界的な協力が必要です。」とおっしゃった言葉に、実感がこもっているように感じられました。 

ということで、山中先生は関西的なユーモアのセンス溢れ、足腰と体躯の強い先生でした。 最新の研究成果をわかりやすくお話しになるとともに、「思わぬ政権交代で研究費が1/3に削られてしまったが、できる範囲内で頑張ってやるだけ。」というちょっと政治的な発言もさらりとできる山中先生でした。
by seimei-eiyou | 2009-10-29 19:25 | その他