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生命と栄養のブログ from 福山大学 生命栄養科学科

シナリオ

また、インフルエンザの話です。
今回の新型インフルエンザは今後どのように推移するのでしょうか。実際には不確実な部分が多く、正確な予測は無理なのですが、政府が示しているガイドラインを基にあえて今後のシナリオを考えてみます。

現在、新型インフルエンザは、最初の発生地であるメキシコで感染が広がっているのに加えて、人の移動に伴って世界中にウイルスが運ばれつつあると考えられています。日本では水際対策を取っていますが、完全に侵入を防ぐことはできないので、早晩感染者が出るでしょう。などと書いていたら、日本でも疑い患者が出ました。これらは、最近アメリカやカナダに行った人が簡易検査(病院などで行っている鼻に綿棒押し込んで試料を取る免疫クロマト法)で陽性を示したもので、ブタインフルエンザかどうかはウイルスの遺伝子を調べないと分かりません。前にも書いたように、この時期はまだ通常のインフルエンザの流行が終息していません。もしブタインフルエンザであっても、封じ込めに成功すれば問題ありません。ただ、いつかは必ず日本でも感染が広がります。それが今回なのか、もっと先なのかは分かりませんが。

ブタウイルスが通常のインフルエンザと同じ程度の感染力を持っているとすると、封じ込め対策をすり抜けた場合、数週間のうちに日本中に流行が広がります。まったく新しい型のインフルエンザは免疫を持つ人がほとんどいないことから、急激に感染が広がると予想されています。政府は、感染者の総数を全人口の約25%程度(約3,200万人)と見積もっています。この内の40~80%の人が医療機関で受診し、ウイルスの病原性の強さによりますが、数十万人から最大で二百万人が入院すると予想されます。死亡者数も病原性によって大きく異なりますが、普通のインフルエンザと同じ程度であれば2~3万人程度、高病原型だと感染者の2%、64万人が死亡します。このような状況が短期間に集中して発生すると、社会的混乱が大きく、ライフラインの維持もできなくなったり、最悪の場合は医療体制が持ちこたえられない可能性があります。そのため、可能な限りの対策を取って、感染者数を減らし、さらに感染のピークを遅らせたり、分散させたりすることが必要です。

通常のインフルエンザにはワクチンがありますが、新型に対応したものを一から作るとなると、ワクチンの効果と安全性を確認するまでに早くて数ヶ月、そこから大量生産にかかり、ワクチンが行き渡るようになるにはさらに数ヶ月が必要です。運良く、過去に開発したワクチンで効果の高いものが見つかれば別ですが、少なくとも流行の前半はワクチンを期待できません。

このような流行がどのぐらいの期間続くのでしょうか。これも不確定要素が多いのですが、おそらく最初の感染のピークが2ヶ月ぐらい続いた後、小康状態となり、さらに二度目、三度目の感染のピークが現れると予想されています。そのため、流行が完全に収束に向かうのに1年以上かかるかもしれません。特に、二度目、三度目の感染のピークでウイルスが変異(形が変わる)していると、最初の感染で獲得した免疫が効かず、再度感染してしまう可能性があります。

今回の流行の原因ウイルスの性質はまだ十分に明らかになっていませんが、メキシコ以外の地域での感染者の様子から、病原性の低い弱毒株ではないかと予想している人もいます。ただ、弱毒株といっても、感染者が増えるとそれだけ死亡する人が増え、日本だけでも数万人の人が死ぬかもしれません。また、流行の途中で病原性が変化して、強毒型が出現する可能性もあります。

今後のシナリオを最も楽観的に予想すると、インフルエンザの流行が下火になる夏を迎えて、今回のウイルスの毒性が弱いため感染が思っていたほど拡大しないかもしれません。もしかしたら、はじめは小規模の流行だったのに、冬になって急に感染が拡大し始めるのかもしれません。それとも、最初から大規模な流行を引き起こし、変異を繰り返すことで、長期にわたって我々を苦しめ続けるのでしょうか。

シナリオ_c0166720_8185853.jpg今後の流行について正確に言い当てることは専門家でも難しいでしょう。適当なことを言って、後付けで「だから私の言ったことは正しかった」とすることはできますが、こんなことは誰も求めていません。今必要なのは“予言”ではなく、着実な対策の遂行です。


By KY
by seimei-eiyou | 2009-05-01 08:19